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第34回 国民文化祭・にいがた2019、第19回 全国障害者芸術・文化祭にいがた大会

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PRサポーターズ&インタビュー・コラム

「文化・芸術と共感:パブリックの基盤」

2019年2月1日

PRサポーター 新潟県立大学長 若杉隆平さん(経済学者)

フランス・アルルの円形劇場

地中海地方の都市を訪れると音楽と古代遺跡との出会いを感じます。ローマの古代遺跡カラカラ浴場では夏の夕暮れには「アイーダ」が始まり、人々はタイムカプセルで古代に戻ったような錯覚に陥ります。ベローナの堂々とした円形競技場は音楽祭に参加する人々に申し分のない環境を提供します。フランス・アルルやエーゲ海最大級のトルコ・エフェソスの円形劇場では僅かな音も遠くの観客に届く素晴らしい音響効果があります。
冬の厳しい内陸ヨーロッパでは室内で人々が音楽を共有できるように多くの資財がつぎ込まれています。ウィーン、パリ、プラハ、ブダペスト、ドレスデンなどの歴史あるオペラハウスの音響効果は素晴らしく、きらびやかな装飾に飾られた観客席の人々に大きな感動を与えてくれます。ザルツブルグの夏は街全体で訪れる人々に共感を与えてくれます。
大自然が豊かなアメリカは多様です。ロッキー山脈の麓、コロラドにある赤茶けた岩場(レッドロックス)では、天然の岩場が作り出す劇場は夕暮れになると野外映画館に変身します。40年以上も前の大学院生の頃ですが、アメリカの大自然の中で封切りのスターウォーズを友人達と鑑賞する幸運に恵まれました。一方、東部の緑豊かなボストン郊外タングルウッドで夏に開催される音楽祭は東部の洗練された雰囲気の中で人々を迎えます。乾いた西部の大自然とは対照的です。
国内にも音楽をはじめ素晴らしい文化・芸術に接することが出来る場所は沢山あります。人々を幽玄の世界に引き込む佐渡の薪能は国内外から注目されていると思います。自然に恵まれる新潟には、その他にも人々に共感をもたらす文化・芸術が少なくありません。

ドイツ・ドレスデン歌劇場

文化・芸術には人々の共感を呼ぶ力があると思います。音楽だけでなく文化・芸術に接することで得られる共感を人々が大切にしてきた証をあちこちの場で感じ取ることが出来ます。しかし現代の技術革新は文化・芸術への我々の接し方を変えつつあるように思います。決められた場所と時間に出かけて素晴らしい音楽を多くの人々と一緒に楽しむ代わりに、優れた音質のヘッドフォンで好きな時間に好きな音楽を一人で楽しむことが出来ます。わざわざ出かけなくても4Kや8Kの高質な画像によって美しい芸術を自分一人で楽しむことの出来る時代になりました。私の専門である経済学から見れば社会の効率性が確かに高まったことになります。しかし、それと引き替えに人々が同じ時間・場所で連帯しながら得る共感は失われます。
個の独立が際限なく高まり、余りにばらばらになると、人々はパブリック(公)に関わる意欲と関心を失いかねません。その結果、社会そのものが崩壊するのではないか気懸かりになります。人々の共感はパブリックの基盤であり、大切にされねばなりません。
新潟の大地をとうとうと流れる信濃川と阿賀野川、越後の山々、そして日本海、これらの自然と共存して生まれ、引き継がれる文化・芸術に多くの人々が参加し、共感を高めることは、社会の基盤をより確かなものとすることに間違いなくつながります。


若杉隆平さん/石川県出身。経済学博士。
横浜国立大学・慶應義塾大学・京都大学教授等を経て平成29年4月より現職。
京都大学名誉教授。
※役職等は執筆時現在です。

■関連リンク
新潟県立大学

印刷用コラム:「文化・芸術と共感:パブリックの基盤」(PDF形式707KB)
PDF版デザイン協力:新潟県タオ国際交流員