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第34回 国民文化祭・にいがた2019、第19回 全国障害者芸術・文化祭にいがた大会

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PRサポーターズ&インタビュー・コラム

「みえない障害:難聴」

2018年11月13日

PRサポーター 新潟大学長 髙橋姿さん(耳鼻咽喉科医)

髙橋姿学長

つい最近まで放送されていたNHK朝ドラ「半分、青い。」の主人公の鈴愛(すずめ)は、小学校時代に罹ったおたふく風邪の後遺症で、左耳が全く聞こえませんでした。その時に担当医が両親にした説明は以下の通りです。

医師:「まず担任の先生に(次のことを)おっしゃって下さい。後ろの方の席では聞こえにくいし、どこから音がしているのか判別するのが…。音は両方の耳で聞く事によって聞き定められます。音の遠近感覚・方向は分からなくなります。(中略)休み時間たくさんのお友達が一斉におしゃべりしますと、もう何を言われているか分かりません。音楽が鳴っている所とかテレビがついたままのおしゃべりも難しい。」

このように片耳だけで音や声を聞くと、どちらから話しかけられているか分かりません。良い方の側から話しかけられると普通に対応できても、逆からでは気づかないこともあります。会社の上司から「ときどき言っていることを無視する!」と叱られると患者さんから聞いたことがあります。朝ドラでは家族や親友達はすべて主人公の右側から話しかけていました。しかし、多くの人はどちらの耳が不自由かには関心を持ちません。

人は音声により意思を伝達するので、難聴は重大なコミ二ケーション障害です。片側のみの難聴でも大変ですが、両側ではさらに不自由しますし、低音・高音等の音域別の障害でも様々な不自由が生じます。十分に聞き取れないために繰り返し聞き返すと、難聴と知らない人の多くは怒り出します。そこで、曖昧なところで「はい、分かりました。」と返事をしてしまい、これが後日に大きなトラブルつながることもあります。このように、難聴の存在は外見からは判断できませんので、われわれ耳鼻咽喉科医は難聴を「みえない障害」と捉えています。

一般的に、加齢に伴う老人性難聴は良く知られていますが、難聴は子供にも多く、生まれながらの難聴児は1,000人から1,500人に1人といわれています。多くは遺伝性難聴や胎生期のウイルス感染ですが、前述のようにおたふく風邪によるムンプス難聴(多くは片側のみ)、慢性中耳炎による難聴等があります。生まれながらの難聴があると、そのままではことばを獲得できません。言葉を獲得しないと思考能力が育ちにくく、社会生活にもうまく適応できません。ではどうするかと言うと、通常は補聴器などを用いたことばの教育を聾学校で行います。手術で改善が得られる場合は聴力改善手術を行っています。しかし、神経性の重度難聴では難しく、限界がありました。

そこで、約30年前から人工内耳が登場してきました。これは、内耳に埋め込んだ電極により、聴こえの神経を直接刺激して聴こえを回復しようというものです。適切な時期に人工内耳の埋め込み手術を行えば、小児の半数以上は普通小学校に進学することが可能ですし、聾学校での教育にも大きな効果がみられます。成人においても、一度ことばを獲得してからの重度難聴ならば改善が可能です。すべての患者さんに当てはまるわけではありませんが、非常に有力な方法です。

耳マーク

ところで、公共の施設やホテルのフロントなどで「耳マーク」を見たことがあるでしょうか。そこには「耳の不自由な方は筆談しますので申し出てください。」などとも書いてあります。しかし、自分の障害を率先して名乗り出るものでしょうか。難聴者のバリアフリー対策は非常に遅れています。難聴者には“白い杖”はありませんし、盲導犬は沢山いても、難聴者を助ける聴導犬の存在はほとんど知られておらず、数も絶対的に不足しています。

一方で、現代の社会において難聴者の暮らしを大いに助けるものが登場しました。携帯電話やスマートフォンです。電話機能ではなくメール機能が非常に有用です。これにより約束の時間や要件を正確に伝えることができるようになりました。今後さらにIT技術が発達すれば、人工内耳の飛躍的な発達はもちろん、ことばを聞き取り、かつ音声を発するIT機器の開発はそう遠くないと思われます。

最後に、聴こえの良い人(健聴者と言います)が難聴者と会話する時の心得について述べます。難聴者の正面に向き合って顔の表情を見せながら、ゆっくりはっきりと、短い文節で話すことがポイントです。これだけで難聴者の聞き取りはずいぶんと良くなります。マスクなどをしたままだと、声がこもり、表情がみえず、聞き取れません。難聴者の不自由を理解して、皆が少しずつ配慮をすれば、“聴こえのバリアフリー”は大きく前進します。


髙橋姿さん/群馬県出身。医学博士。新潟大学医学部教授、医学部長等を経て平成26年2月より現職。
 ※役職等は執筆時現在です。

■関連リンク
新潟大学
一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 難聴者・中途失聴者のホームページ!聞こえのためのホームページ NHK連続テレビ小説『半分、青い。』

印刷用コラム:「みえない障害:難聴」(PDF形式565KB)
PDF版デザイン協力:新潟県タオ国際交流員