第34回 国民文化祭・にいがた2019、第19回 全国障害者芸術・文化祭にいがた大会

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芸術は長く 人生は短し (医の道は終わりなく 究める時は限りあり)

2018年9月11日

新潟県 福祉保健部 参与 荒川 正昭

「 芸術は長く 人生は短し art is long, life is short 」は、広く人口に膾炙された諺(ことわざ)、格言であります。その意味するところは、人の一生は短いが、すぐれた芸術作品は長く世に残る、また、芸術作品を完成させるには長い年月を費やすものだが、人生はあまりにも短すぎる(故事ことわざ辞典)、芸術家の生命は短いが、芸術作品は作者の死後も永遠に残る(大辞林)と解説されています。

図1 ギリシャ・コス島 ヒポクラテスの木(プラタナス)の子供
新潟大学病院 入退院玄関前

良く知られていることですが、この言葉の源は古代ギリシャの医師 ヒポクラテス Hippocrates ( BC 460 – 375 頃?)であります。しかし、私のまわりの若者に聞いてみますと、意外に知られていないと感じます。ヒポクラテスについては、伝説的な言い伝え、不明な点が多いのですが、実在の人物であり、ギリシャ ・ コス島で初めて若い学生に医学を教えた人、即ち医学教育の元祖であります。現在でも、「医聖」、「医学の父」と称され、その場所は観光スポットであり、「ヒポクラテスの木」と呼ばれるプラタナスの老大木があります。この木の下で医学の講義をしたと伝えられています。

この言葉は、ラテン語で 「 ars longa, vita brevis 」、ヒポクラテスが医学、医療を学ぶ若者に、「 医学は一生かけても究め切れないほど奥が深い。医術を学び身につけるには長い年月を必要とする。しかし、人の一生はあまりにも短い。怠けることなく、時間を大切にして、勉学に励まなくてはならない。」と励ました、或は戒めた言葉であります。「 art(s) 」は、英和辞典を紐解きますと、①芸術、美術、②技術、③人文科学、④科目(大学の教養科目)などと訳されていますが、②技術は本来「 医術healing art 」を意味していると言われています。私は、医師として58年歩んだ人生を振り返り、「 医の道は終わりなく 究める時は限りあり 」と実感しています。医師である限り、生涯勉強を貫きたいと、神に健康を祈っています。

「ヒポクラテスの誓い The Hippocratic Oath」は、医師の倫理、義務について医の神をはじめギリシャの全ての神々への宣誓文ですが、ヒポクラテス自身あるいは弟子の一人が書いたと広く信じられてきましたが、実際はのちの時代に成立したとのことです。この「誓い」は、2000年以上前に書かれたものですが、一部の内容は別として、多くは現在でも医療倫理の根幹を成しており、世界の医学教育において現代に至るまで語り継がれています。例えば、自分の能力と判断に従って患者に利益すると思う養生法を選択し、悪くて有害と知る方法は決してとらない、純粋と神聖をもって生涯を貫き、自分の医術を行う、どんな家を訪れる時も自由人と奴隷の相違を問わず、不正を犯すことなく、医術を行う、医に関するか否かに関わらず、他人の生活についての秘密を遵守するなどが謳われています。

図2 ギリシャ・コス島 ヒポクラテスの木(プラタナス)の孫
新潟県立魚沼基幹病院
正面玄関向かって左隣

コス島に現存するヒポクラテスの木は、樹齢500年ともいわれる老大木ですが、当時から何代経たのでしょうか。昭和44(1969)年にその球状果を持ち帰った新潟市の蒲原宏先生が育てた一本が、新潟大学医歯学総合病院の入退院口に大木として育っています。その木の分身、子供、コス島の元祖の孫にあたる木々が、県内はじめ全国の病院、大学で育っています。いずれの病院、大学も、そこで学ぶ若者が医の倫理をわきまえ、真に国民の幸せを願って、日本の医療に貢献できる医師に育ってほしい、自らもそうあろうと願っていると思います。

私も、現役時代、医学部事務の方とお話している間に、背丈50cmほどの若木をいただくことになり、我が家の狭い庭先に植えました。大学を離れて16年が経ちましたが、背丈は3mに達し、直径も10cm近くなり、壁や軒先に届くようになってしまいました。平成12年に始まった魚沼地域の医療再編計画により、3年前南魚沼市浦佐に県立魚沼基幹病院(公設民営、指定管理者:一般財団法人新潟県地域医療推進財団)が開院されましたが、病院長内山聖先生はじめ関係者の方々の御好意で、この基幹病院の一隅に移植させていただきました。新病院には、新潟大学医歯学総合病院魚沼地域医療教育センタ-(新潟県寄附講座)が置かれ、魚沼市立小出病院に既に設置されている新潟地域医療学講座(同じく新潟県寄附講座)と協同して、医学部の5年生全員が2週間泊まり込みで行う実習を担当しています。この第一線の医学教育の現場に植えられたいわば「 第3代 ヒポクラテスの木 」が、若い医学生への励ましのシンボルになってほしいと願っています。

(平成30年8月 戊戌葉月)


荒川正昭/新潟県地域医療推進機構理事長、新潟県健康づくりスポーツ医科学センター長、
新潟大学名誉教授、元新潟大学長、独立行政法人大学入試センター 元理事長・所長
※所属、肩書き等は執筆時現在です。

■関連リンク
新潟大学地域医療教育センター・魚沼基幹病院
新潟県健康づくり・スポーツ医科学センター

印刷用コラム:芸術は長く 人生は短し (医の道は終わりなく 究める時は限りあり)(PDF形式683KB)
PDF版デザイン協力:新潟県タオ国際交流員